冬から春先にかけて流行しやすい「ロタウイルス感染症」は、主に乳幼児に多くみられる胃腸炎の一種で、重症化することもある感染症です。特に生後6か月から2歳ごろまでの子どもは感染リスクが高く、家庭内や保育施設での集団感染も少なくありません。ロタウイルスは非常に感染力が強く、一度感染しても再感染する可能性があります。
この記事では、ロタウイルスとは何か、どのような症状が出るのか、感染の原因や経路、さらには予防法や治療法についても詳しく解説します。お子さんを持つ保護者の方や、介護・医療関係者の方にとっても参考になる内容です。
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ロタウイルスとは?
ロタウイルスは、乳幼児の感染性胃腸炎の主な原因となるウイルスの一種です。「ロタ」とはラテン語で「車輪」を意味し、電子顕微鏡で見ると車輪のような形をしていることからこの名前がつきました。
ロタウイルスはRNAウイルスの一種で、複数の型(主にA群、B群、C群)がありますが、人に感染して重症化しやすいのは「A群ロタウイルス」です。特に1歳未満の乳児が感染すると、重度の脱水症状を引き起こし、入院を要するケースも少なくありません。
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主な症状
ロタウイルス感染症の症状は、主に胃腸に関わる症状です。感染から発症までの潜伏期間は1〜3日程度です。
1. 激しい下痢
ロタウイルス感染症の特徴的な症状の一つが、水のような白っぽい便が大量に出る「水様性下痢」です。1日に何度も排便することがあり、乳幼児では短時間で脱水症状を起こすこともあります。
2. 嘔吐
発症初期には嘔吐が見られることが多く、これが下痢よりも先に現れるケースもあります。嘔吐は1〜2日続くことが多く、食事や水分の摂取が難しくなる原因となります。
3. 発熱
38〜39度程度の発熱を伴うことがあり、全身の倦怠感や不機嫌などが見られます。発熱は1〜3日程度でおさまることが多いですが、他のウイルス感染と併発して長引くこともあります。
4. 脱水症状
最も注意が必要なのが「脱水症状」です。乳幼児は体内の水分量が少ないため、下痢や嘔吐によって急激に水分と電解質を失うと、命に関わることもあります。
脱水のサイン:
• おしっこの量が少ない
• 唇や口の中が乾いている
• ぐったりして元気がない
• 泣いても涙が出ない
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感染の原因と経路
ロタウイルスは非常に感染力が強く、わずかなウイルス量であっても感染を引き起こします。主な感染経路は以下の通りです。
1. 経口感染(糞口感染)
最も一般的な感染経路です。感染者の便に含まれるウイルスが、手やおもちゃ、食器などを介して口に入ることで感染します。トイレの後にしっかりと手を洗っていない場合などに感染が広がりやすくなります。
2. 接触感染
感染者が触った物や場所にウイルスが付着し、それに触れた別の人の手から口に入ることで感染します。特に保育園や幼稚園などでの集団生活の場では、接触感染のリスクが高まります。
3. 空気感染(飛沫核感染)は基本的には起こらない
インフルエンザなどとは異なり、空気中に浮遊するウイルスを吸い込んで感染することは基本的にはありません。ただし、嘔吐時に飛び散ったウイルスが周囲の物に付着し、間接的に感染が広がる可能性はあります。
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感染しやすい年齢と時期
ロタウイルス感染症は、主に生後6か月〜2歳までの乳幼児に多くみられます。一度感染しても完全な免疫はつかず、再感染することもありますが、年齢が上がるにつれて重症化することは少なくなります。
流行時期
日本では主に**冬から春先(12月〜5月)**にかけて流行します。気温が低く湿度も低いため、ウイルスが生存しやすい環境となっています。
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診断と検査方法
医療機関では、便の迅速検査によってロタウイルスの有無を調べることができます。検査キットを使って数分で結果が出るため、すぐに診断が可能です。必要に応じて、他のウイルスとの鑑別のために複数のウイルス検査を行うこともあります。
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治療法
ロタウイルス感染症には、特効薬は存在しません。そのため、治療は主に対症療法となります。
1. 水分補給
最も重要なのは「脱水を防ぐこと」です。経口補水液(OS-1など)を少量ずつ、こまめに摂取させることが推奨されます。嘔吐がひどく経口摂取が困難な場合は、点滴による水分補給が必要です。
2. 食事
無理に食べさせる必要はありませんが、食欲がある場合は消化のよいものを少しずつ与えます。乳児の場合は母乳やミルクを少しずつ飲ませましょう。
3. 解熱剤
高熱によってぐったりしている場合には、医師の指示のもとで解熱剤を使用することもあります。ただし、下痢や嘔吐を止める薬は基本的には使用されません。
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予防法
1. ワクチン接種
ロタウイルス感染症には、予防接種があります。日本では「ロタリックス」と「ロタテック」という2種類のワクチンがあり、いずれも生後6週〜24週以内に複数回接種することで、重症化を防ぐことができます。
ワクチンを接種しても感染を完全に防ぐことはできませんが、重度の下痢や脱水症状の発生を大きく抑える効果があります。2020年10月から、ロタウイルスワクチンは定期接種化され、希望すれば無料で受けることができます。
2. 手洗いの徹底
石けんと流水による手洗いは、感染拡大を防ぐうえで非常に効果的です。特に、トイレの後、おむつ交換の後、食事の前後には入念な手洗いを習慣づけましょう。
3. おもちゃや共用物の消毒
家庭内や保育施設では、おもちゃやテーブル、ドアノブなどの共用物を定期的に消毒することが重要です。ロタウイルスはアルコールでは効果が薄いため、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)を薄めたもので消毒するのが有効です。
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家族が感染した場合の対応
家庭内で感染者が出た場合、他の家族への感染を防ぐための対策が重要です。
• おむつの処理は密閉袋に入れて捨てる
• 感染者の便や吐しゃ物は使い捨て手袋とマスクを着用して処理
• 共有タオルの使用を避け、ペーパータオルを使用
• トイレや洗面所の消毒をこまめに行う
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まとめ
ロタウイルス感染症は、乳幼児にとって特に注意が必要なウイルス性胃腸炎です。症状は下痢、嘔吐、発熱などで、脱水症状を引き起こすことがあります。感染力が非常に強く、家庭内や保育施設で広がりやすいのが特徴です。
しかし、予防接種や日常の衛生習慣の徹底により、感染や重症化を大きく防ぐことができます。お子さんの健康を守るためにも、正しい知識を持ち、適切な対策を心がけましょう。